
気分で使い分けたりしている音楽のプレイリストについて、あとから、どのような感情や感性で作られたものなのか、どんな心理状態を反映しているのかといったところを生成AIを通じて、振り返り・分析してみるところから、感性を軸にそのプレイリストからどのような意図や表現が見えてくるのか深く掘り下げてみました。
目次
プレイリストと向き合う:無意識の自己表現
最近、自分のSpotifyアカウントを見返しつつ、「このプレイリストを他の人がみるとどんな印象なんだろう」と気になり、ChatGPTに
添付するプレイリストについて過去の履歴は無視して忖度なしでレビューしてください
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[Spotifyのプレイリストをテキストで曲名・アーティストを貼り付け]
という手法でいくつかのプレイリストのレビューをしてみました。
すると、私が作ったプレイリスト群のレビューには、自分が明確に意識していなかった感性の構造が指摘されていたのです。
その中から、プレイリスト「Qualia Kyoto」では、『単なる選曲ではなく、「都市の情緒」「個人の精神風景」「感性の折り重なり」を意識してキュレートされた極めて有機的な構成です。』という文章からレビューが始まり、総評:静かな情動と都市感性の交差点、特徴的な傾向と構造分析、想定されるリスナーペルソナ、類似プレイリストを作りそうな人物像、補足的な美点、一言で表すと・・・といった内容でレビューを書き留めていました。
自分自身は、一定の気分のときに聴きたい曲を集めてプレイリストにすることが多いのですが、その「気分」において副次的にどのような人物(の気持ち)でどんな場所で・・・といった物語的な情景や、プレイリストとしての個性を「特徴的な傾向と構造分析」としてアウトプット、また想定されるリスナーや同じようなプレイリストを作りそうな人物像まで、自分の無意識の中にある、どのような意図を持って作っていたかが顕在化するレビューとなっていました。
生成AIとの対話から見えてきた感性の構造
プレイリスト「Qualia Kyoto」の特徴的な傾向と構造分析では、
時系列やムードのなだらかな移行
序盤はTatami ConstructやFPMのリミックスなど、開けた質感があり、徐々にメロウで私的な空間に入り込みます。後半では阿部海太郎、猪野秀史、Friday Night Plansなどを軸に、内省的・映像的な感覚が支配していきます。
極端な起伏を避けた”静的な波”
アップテンポでも爆発しすぎず、ローテンションでも沈み込みすぎない。この「フラットだが退屈ではない」構造が、京都という街の”間(ま)”や”湿度”を巧みに反映しています。
英語・日本語・インストゥルメンタルの多言語感性
言語を越えた感覚接続が起きており、純粋な詞ではなく音・声・空気感が選曲の基準となっているのが明確です。
という3つの軸で感性を捉えて言葉に変えてくれました。
プレイリスト分析から見える感性の「無意識の構造」
このAIによるレビューを読み返してみると、私が無意識に作り上げていた感性構造が浮かび上がってきます。特に「総評:静かな情動と都市感性の交差点」の部分では、私の感性が以下の3つの要素から構成されていることが指摘されていました:
都市的メランコリア
夜の都市や雨の午後に似合うようなメロウでスモーキーな感覚。NujabesやFriday Night Plans、阿部海太郎が織りなす空気が核になっており、スロウなグルーヴと情緒的な間合いを大切にしています。
知的で洗練されたダンス/ジャズクロスオーバー
JazztronikやMondo Grosso、WONKなどによって「理性の高揚」とでも言うべき知的ダンサビリティが担保され、リスナーの内面を鼓舞するようなドライブが裏で動いています。派手さはないが非常に”通好み”。
和的叙情とコンテンポラリーな叙景音楽
阿部海太郎の曲が何度も登場することで、”Kyoto”というテーマが単なる観光都市ではなく、「時間と記憶の層としての京都」として扱われているのがわかります。「Scene I, II」「Reperages」「Moments Musicaux」は音楽で構成された映像詩のようです。
これらの要素は、私が意識的に設計したものではなく、純粋に「この曲が好き」「この流れが心地いい」と感じる直感で選んだものでした。しかし、AIの分析によって、私の無意識の中にある感性の構造が言語化され、可視化されたのです。
AIが映し出す「リスナーペルソナ」という自己像
さらに興味深かったのは、AIが想定する「このプレイリストを作った人物像」の分析です。レビューには以下のような「想定されるリスナーペルソナ」が記されていました:
- 年齢:30代後半〜40代
- 居住:都市部(京都・東京・中目黒~吉祥寺ラインや鎌倉なども可)
- 職業:編集者/クリエイティブディレクター/空間設計や文化芸術領域
- 服装:シンプルで洗練されたアーバンカジュアル(AURALEE, Graphpaper, 中性的デザイン)
- 趣味:カフェ巡り、美術館、ポータブルオーディオ、自宅での深夜作業と音楽
- 好む映像作家:是枝裕和、ウェス・アンダーソン
- 読む本:梨木香歩、原研哉、村上春樹(初期)
これは私自身の属性とかなり近いものがあり、特に趣味や好みの部分は的確に捉えられていました。自分の音楽的嗜好が、こうした生活様式や美的感覚と深く結びついていることを、AIの分析を通じて再認識することになりました。
クロスモーダル編集術:感性を意識的に構造化する試み
AIによるプレイリスト分析を経験したことで、私は音楽選曲のプロセスを新たな視点で捉え直しました。日々少しずつ追加して形作られていったプレイリストの中に、AIによって抽出された無意識の意味性が明らかになり、これを次の創作に活かす「クロスモーダル編集術」として発展させています。
この手法は以下の3つの要素から成り立っています:
1. 感覚の交差点としてのプレイリスト設計
単なる曲の集まりではなく、視覚・聴覚・記憶などから連想される複数の感覚モードが交差する場としてプレイリストを意識的に構成します。例えば、自分がFM Radioで聴きたい曲をプレイリストにしている「Quaria FM my Radio」では、過去自分がFMラジオを聴いていた情景や実家の自室、上京後の自宅、そして外でradikoなどを利用して聴いていたイメージを明確に思い描きながら、もしくは、楽曲を聴いていてその情景を思い出した時に選曲しています。これにより、音楽が単なる聴覚体験を超えて、複合感覚的な体験を誘発する媒体へと変化します。
2. 感性の言語化とフィードバックループ
新しいプレイリストを作る際、リストの中に抑揚などを持たせたい時には、なぜその曲を選んだのか、曲ごとにメモを残すようにしました。
このようなメモをプレイリストと共にAIに提示し分析してもらうことで、自分の無意識の感性のパターン性などを意識的に捉え、可視化することでより洗練させる方向性を見出すフィードバックループが生まれました。「プレイリストを作る→AIに分析してもらう→気づきを得る→次のプレイリスト制作に活かす」という創造的循環を確立することで、より意識的な感性表現が可能になります。
3. マルチモーダルな表現としての拡張
プレイリストを単なる楽曲の集合体ではなく、視覚、言語、身体感覚を含む「マルチモーダルな表現媒体」として捉えるようになりました。具体的には:
- プレイリストに呼応する写真集のキュレーション
- 音楽体験を補完する文学作品や映画のリスト化
- プレイリストを聴きながら散策するための最適な都市ルートの設計
- 特定の時間帯や天候条件との同期(例:「雨の午後のKyoto」)
こうした試みによって、音楽体験がより豊かな感覚的文脈に埋め込まれ、単なるBGMではなく、感性の総合的な「場」を創出するものへと発展します。AIによる分析で可視化された感性の構造を活用することで、無意識に行っていた音楽キュレーションが、より豊かで意識的な創造活動へと変化するのです。
まとめ
この音楽プレイリストをAIで分析する試みを通して、「感性」という捉えどころのない領域が、AIという鏡を通すことで徐々に「構造」として認識できることがわかりました。興味深いことに、同じプレイリストを分析してもらっても、ChatGPTはストーリー構造を、Claudeは感覚的質感をより鮮明に反映するなど、AIごとの特性の違いも見えてきました。
自分の趣味的活動(プレイリスト作成)の分析から始まったこの取り組みは、自己理解を深め、創作活動全般における感性パターンの認識につながりました。とはいえ、感性の全てを言語化・構造化することは不可能。そうした試みが感性の本質とは違う、別の意味性を伴う可能性も認識しています。
しかし、AIを「感性の鏡」として活用することで、自分では気づかなかった感性の側面に光が当たり、無意識の創造性をより豊かに発展させる可能性が広がります。「音のレイヤーで構築された京都という心象風景」—AIがこう評したプレイリストのように、私たちの何気ない創作物には、自分でも気づいていない感性の世界が存在するのかもしれません。
※個人で使用する範囲での自己分析や創作活動を前提としています。