
昨今、自作キーボードが盛り上がっており、トラックボール付きで無線対応の分割キーボードなど、高性能な自作キーボードキットが手軽に購入できるようになりました。販路も遊舎工房やパーツ主体のTALPKEYBOARDだけでなく、BOOTH、STORES、BASE、Shopify、メルカリ、さらにはオープンソースの自作キーボードの設計データなどをベースとした安価な派生製品がAliExpressに数多く出品されるなど多様化しています。
一方で、イベントに足を運び実際に繋がりのある製作者が販売するキットもあれば、ネットで発信はしているものの実態がよくわからない販売者も増えてきました。
この記事では、人となりではなく、自作キーボードキットそのものに焦点を置き、購入時の注意点を整理してみました。
目次
- 転売者から買うリスク
- 正規サポートが受けられない
- 不良品判断の困難さ
- 販売期間と継続性の確認
- マイコンの半田付け済みかどうかの重要性:品質と法的観点
- USB機器販売における品質・互換性の考慮
- 確認すべき項目
- より安全に購入・使用できる自作キーボードの条件
- 1. 組み立てキット(パーツ販売)として提供
- 2. 有線接続の場合
- 3. 無線接続の場合
- 無線対応キーボードの追加要件
- 購入前の具体的チェックリスト
- 安全に購入・使用するために
- ファームウェアのアップデートや焼き込みについて
- ファームウェア更新手順について
- ファームウェアの焼き込み方法の確認
- ファームウェアのカスタマイズ性
- アップデート情報の提供体制
- ファームウェアによるセキュリティの考慮
- 購入時のチェックリスト
- まとめ
- 余談:サポート充実時における潜在的セキュリティリスク
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転売者から買うリスク
自作キーボードキットの市場拡大に伴い、転売目的で商品を扱う出品者が増えています。
正規サポートが受けられない
転売者から購入した場合の最大の問題は、製作者からの正規サポートが受けられないことです。
具体的なリスク:
- 販売完了など様々な理由でファームウェアの最新版が入手できない
- 不具合発見時の対応パーツが手に入らない
- 組み立てマニュアルの更新版が提供されない
- 製作者コミュニティでのサポートが受けられない
- 改良版や後継製品の優先案内がない
自作キーボードは製作者が継続的に改善を加えることが多く、購入後も製作者との関係が重要になります。転売品はサポート対象外と公言される製作者の方もいるため、購入後、不具合などがあれば、自らパーツを手に入れ、キーボードの基板をみて、ファームウェアを組み上げることができる必要が出てきます。
不良品判断の困難さ
転売者は技術的な知識が不足していることが多い印象です。
トラブル例:
- 初期不良なのか組み立てミスなのか判断できない
- 動作確認が不十分なまま販売されている
- 欠品や付属品の不足に気づいていない
- 技術的な質問に答えられず問題解決ができない
電子機器である自作キーボードは、チップがダミーで疎通していない、基板の不良で結線できていないケースなど、見た目では判断できない不良があります。技術的な知識がない転売者では適切な判断ができません。
販売期間と継続性の確認
確認すべきポイント:
- 出品者が製作者本人か転売者か
- 製作者の連絡先やサポート体制が明示されているか
- 過去の取引実績と評価内容(特に技術的な対応)
- 自作キーボードコミュニティでの認知度や評判
購入前に問い合わせをして、技術的な質問に具体的に答えられるか確認することをおすすめします。
マイコンの半田付け済みかどうかの重要性:品質と法的観点
自作キーボードキットを選ぶ際、マイコン(キーボードの頭脳部分)が半田付け済みかどうかは、技術的な理由だけでなく品質や法的な観点からも重要です。また、最近はBluetooth環境を統合したタイプのマイコンも数多く出ているため、USBとBluetooth双方の留意点についてまとめています。
USB機器販売における品質・互換性の考慮
マイコンに半田付け済みでUSBポートが備え付けられ、接続すればすぐに動作する状態の製品は、完成品のUSB機器として扱われます。この場合、以下の点に注意が必要です。
USB-IFライセンスに関する注意点:
- USB機器を商品として販売する場合、USB Implementers Forum(USB-IF)の認証取得が推奨される(法的義務ではない)
- USB-IFロゴを使用する場合は必ず認証が必要
- 個人製作者の場合、費用や手続きの面から認証を取得していないケースがほとんど
USBに関わるその他の注意点:
- バッテリー内蔵型のUSB機器を商品として販売する場合、USB-C充電機能付きの製品はPSE法(電気用品安全法)の対象となる可能性がある
購入者への影響:
USBに関する注意点に該当する製品の場合、以下のリスクがあります:
- USB規格に完全に準拠していない可能性があり、互換性に問題が生じる場合がある
- 接続機器への悪影響(過電流など)のリスク
- メーカーサポートが受けられない
- 意図してキーボード以外の機能が組み込まれている可能性
確認すべき項目
購入前に以下を確認することをおすすめします:
品質・互換性の確認:
- USB規格への準拠について製作者が情報を提供しているか
- 実際の動作実績やユーザーレビューがあるか
- ACアダプターが付属する場合、PSEマークの表示があるか
- 事業者としての届出がされているか(継続的な販売の場合)
利用環境の考慮:
- 個人使用であれば、コミュニティで実績のある製品を選ぶ
- 業務使用の場合は、サポート体制が明確な製品を選ぶことをおすすめします
- 法人購入の場合は、事業者情報やサポート体制の確認が必要
- セキュリティが重要な環境では、リアルタイムでデバイスを検知できるセキュリティソフトなどの導入を検討
より安全に購入・使用できる自作キーボードの条件
一方、以下の条件を満たすキットであれば、より安全に購入・使用できます。
安全な自作キーボードキットの条件:
1. 組み立てキット(パーツ販売)として提供
- PCB基板、スイッチ、キーキャップなどがバラバラの部品として販売されている、またPCB基板はコンデンサ、スイッチソケットは半田付け済みでもマイコンは半田付けされていない状態で販売されている
- マイコンは半田付けされていない状態(または別売り)
- 購入者が自分で組み立てることが前提
2. 有線接続の場合
- マイコンを購入者自身が取り付ける
- USBポートへの接続は購入者が行う
- 完成品として販売されていない
3. 無線接続の場合
- 使用するマイコン(例:Xiao BLE、nice!nano等)に技適マークが取得されている
- マイコン単体で技適認証済みであれば、認証された設計(特にアンテナ部分)から変更せずに組み込む場合、それを組み込んだキーボードも合法
- マイコン自体のアセンブリで本来行われない、手動の半田付けの跡など、マイコン自体を改ざんした形跡が疑われる場合は交換、返品する必要があります
- マイコン自体の技適認証番号を確認する必要があります
- 金属ケースで覆う、外付けアンテナを追加するなど、電波特性を大きく変える改造を行う場合は、再度技適の取得が必要になる可能性があります(通常の自作キーボードキットではこのような改造は想定されていません)
具体例:法的に問題のないキット構成
安全な有線キーボードキット:
・PCB基板(マイコン無し)
・コンデンサーやスイッチソケットなど半田付けするパーツ類
・Pro Micro(別途購入、購入者が半田付け)
・スイッチ、キーキャップ、ケース
→ 購入者が組み立てるため、USB-IF認証不要
安全な無線キーボードキット:
・PCB基板(マイコン無し)
・技適マーク取得済みのマイコン(別途購入)
・スイッチ、キーキャップ、ケース、バッテリー
→ マイコンが技適取得済みなら組み込み後も合法
リスクのある販売形態:
・マイコン半田付け済み + USBケーブル付属
・「繋げばすぐ使える」完成品状態(有線の場合)
・動作実績の情報なし、事業者情報なし
・LINE登録が必要など不必要に個人情報の収集が行われる
→ 品質や互換性に問題がある、もしくは商品販売以外に目的がある可能性
違法な販売形態:
・技適マークのない無線マイコンを使用
・完成品として販売
→ 電波法違反、購入者も使用すれば違法
キット購入時の確認ポイント:
- マイコンは付属していない、または購入者が半田付けする前提か
- 「完成品」ではなく「組み立てキット」として販売されているか
- 無線の場合、推奨マイコンに技適マークがあるか明記されているか
- 「自己責任での組み立て・使用」が明記されているか
この条件を満たすキットであれば、より安全に購入・使用できます。ただし、組み立て後の動作保証がないことも多いため、技術的なリスクは購入者が負うことになります。
無線対応キーボードの追加要件
Bluetooth対応など、無線通信機能を持つキーボードの場合は、さらに別の法的要件があります。
電波法による技適マーク取得義務:
- 日本国内で無線機器を販売・使用する場合、技適マーク(技術基準適合証明)の取得が法律で義務付けられています
- 技適マークがない無線機器を使用すると、電波法違反となる可能性があります
- 違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります
必須確認事項:
- 技適マークの表示
- 製品本体または説明書に技適マークが表示されているか
- マークと一緒に認証番号が記載されているか
- 認証番号の確認
- 総務省の技適マーク検索サイトで認証番号が確認できるか
- 販売ページに認証番号が明記されているか
- 海外製品の注意点
- 海外で認証を受けていても、日本の技適マークがなければ違法
- 個人輸入した製品でも、日本国内で使用する場合は技適が必要
グレーゾーンの製品に注意:
- 「技適取得予定」「申請中」という表記は、現時点では未認証を意味します
- 認証番号の記載がない製品は購入を避けることをおすすめします
- コミュニティフォーラムでの「技適は個人使用なら問題ない」という情報は誤りです
購入前の具体的チェックリスト
有線キーボード(USB接続)の場合:
- USB規格への準拠について製作者が情報を提供しているか
- 実際の動作実績やユーザーレビューがあるか
- 事業者情報(販売者の連絡先、所在地)が明記されているか
- ACアダプターが付属する場合、PSEマークの表示があるか
無線キーボード(Bluetooth等)の場合:
- 技適マークの表示を確認
- 認証番号が記載され、総務省サイトで確認できるか
- マイコンに貼付されている技適マークのシールが剥がされていないか
- 使用するマイコンが技適認証済みで、認証された設計から変更されていないか
- 事業者情報が明記されているか
組み立てキット(パーツ販売)の場合:
安全に購入・使用するために
自作キーボードは趣味として素晴らしいものですが、特に無線機能を持つ製品については法的要件を満たしていることを確認する必要があります。
安全な購入のための原則:
- 技適マークは必須:無線キーボードを購入する場合、技適マーク付きの製品のみを選びます
- 品質・動作実績の確認:コミュニティでの実績やユーザーレビューがあるか確認します
- 事業者の信頼性:継続的に販売している信頼できる製作者から購入します
その際、販売者のXアカウントがある場合はそのアカウントのプロフィールから表示されている所在地について、20XX年X月からXを利用しています。をクリックして表示されるアカウントについての所在地に「!」のマークがないかを確認しましょう。もしマークがある場合は、表示されている所在地を偽装している可能性が高いです。 - 業務使用は特に慎重に:会社で使用する場合は、サポート体制が明確な製品を選びます
不明な点があれば:
- 購入前に販売者に直接確認する
- 総務省の電波利用ホームページで技適マークを検索する
- 自作キーボードコミュニティで評判を確認する(ただし法的情報は公式情報を優先)
特に無線機能については法的要件を満たした製品を選び、有線製品についてはコミュニティでの実績を参考にすることで、安心して自作キーボードを楽しめます。
ファームウェアのアップデートや焼き込みについて
ファームウェアとは、キーボードの動作を制御するプログラムのことです。自作キーボードを長く快適に使うには、ファームウェアのアップデートや焼き込みについて理解しておく必要があります。
また、あらかじめファームウェアが焼き込まれている場合、使用者がファームウェア焼き込み作業をする必要がないようにみえますが、意図しないプログラムがあらかじめ混入されている可能性があります。
ファームウェア更新手順について
一部のキーボードキットでは、従来のQMK ToolboxやVial等の専用ツールではなく、GitHub Actionsを使ったファームウェア更新手順を案内している場合があります。GitHub Actionsは本来、開発者向けの自動化ツールであり、一般ユーザーが直接使う想定ではありません。(リスク関連の参考: 「XZ Utils」に仕掛けられたサイバー攻撃と同様のものが他のプロジェクトにも仕掛けられているとOpenSSFが警告)
このような手順では、リポジトリのフォーク→ファイルアップロード→自動ビルド→ダウンロードという複雑なプロセスを経るため、途中で意図しないコードが混入するリスクがあり、またファームウェアを使用するキーボードのデバイス名、マクロ設定や実行時のIPアドレスなどの内容がサーバーに一定期間残り、GitHub Actions提供者が閲覧できる状態になる可能性があります。初心者の方は、QMK ToolboxやRemapなど、確立された専用ツールでの更新に対応したキーボードを選ぶことをおすすめします。業務用途では特に、このような非標準的な更新手順のキーボードは避けることや、オンラインでキーマップの変更などを行う場合はマクロにログインやパスワード、個人情報に関わる内容を含めないことを推奨します。
ファームウェアの焼き込み方法の確認
購入前に必ず確認すべきポイントです。
主な焼き込み方法:
- ドラッグ&ドロップ方式
- 最も簡単な方法
- ファイルをドラッグするだけで更新完了
- 初心者に最適
- QMK Toolbox利用
- 専用ツールを使った方法
- 比較的簡単だが、ツールのインストールが必要
- QMK対応キーボードで一般的
- コマンドライン方式
- 最も柔軟だが難易度が高い
- 技術的な知識が必要
- トラブルシューティングがしやすい
購入するキットがどの方式に対応しているか、販売ページやマニュアルで必ず確認することをおすすめします。
ファームウェアのカスタマイズ性
自作キーボードの大きな魅力の一つが、キー配置を自由にカスタマイズできることです。
確認すべき点:
- 使用されているファームウェアの種類(QMK、ZMK、KMKなど)
- GUIツール(Vial、Remapなど)への対応
- 公式のキーマップエディタの有無
- カスタマイズ用の資料やドキュメントの充実度
特にVialやRemapに対応している場合、プログラミング知識がなくてもブラウザ上で簡単にキー配置を変更できます。
アップデート情報の提供体制
購入後も継続的なアップデートが提供されるかどうかは重要です。
望ましい提供体制:
- GitHubなどでファームウェアが公開されている
- アップデート情報がSNSやブログで告知される
- コミュニティフォーラムやDiscordサーバーがある
- 不具合報告への対応が確認できる
販売者が突然連絡を絶った場合でも、ファームウェアがオープンソースで公開されていれば、コミュニティの助けを借りて対応できる可能性があります。
ファームウェアによるセキュリティの考慮
これは上級者向けの内容ですが、特に業務で機密情報を扱う場合は注意が必要です。
潜在的なリスク:
- キー入力を記録・送信する機能が組み込まれている可能性
- 無線接続経由での不正アクセスの可能性
- 意図しない動作によるデータ漏洩
対策:
- 信頼できる製作者から購入する
- ファームウェアのソースコードが公開されているものを選ぶ
- コミュニティで実績のあるファームウェアを使用する
- 機密性の高い作業用には、有線接続のキーボードを使用する
特に無線キーボードの場合、どのような通信が行われているか、購入前に確認することをおすすめします。商品説明で「特定のWi-Fiチップへの交換を推奨」など、技術的に説明が難しい要求がある場合は、慎重に判断する必要があります。
購入時のチェックリスト
実際に購入する前に、以下の項目を確認することをおすすめします。
販売者について:
- 製作者本人からの購入か、転売者でないか
- 出品者のプロフィールや評価が確認できるか
- SNSやブログで継続的な技術発信があるか
- 自作キーボードイベントへの参加実績があるか
- コミュニティ(Discord等)で活発に活動しているか
品質・法的要件について(最重要):
- 有線の場合:USB規格への準拠や動作実績について情報があるか
- 無線の場合:技適マークと認証番号が明記されているか(必須)
- 事業者情報(連絡先、所在地)が明記されているか
- 継続的なサポート体制が確認できるか
製品仕様について:
サポート体制について:
ファームウェアについて:
まとめ
自作キーボードは、自分好みにカスタマイズできる素晴らしいデバイスです。しかし、購入先や製品選びを誤ると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
安全に購入するための3つのポイント:
- 無線機能がある場合は法的要件を満たした製品を選ぶ
- 無線キーボードは必ず技適マーク付きを選択(法的義務)
- 有線キーボードは、コミュニティでの動作実績や評価を確認
- 事業者情報が明記されている販売者から購入
- 信頼できる販売者から購入する
- コミュニティで実績がある製作者を選ぶ
- イベント参加や技術的発信が確認できる
- 転売者ではなく、製作者本人から購入する
- サポート体制を事前に確認する
- 技術的な質問に具体的に答えられるか確認
- 不良品対応や保証の範囲を明確にする
- ファームウェア更新などの長期サポートが期待できるか
自作キーボードは一度作るとキーキャップやキースイッチを自分の好みにしつつ、長く使えるものなので、購入前の事前確認をしっかり行い、安心して使えるキーボードを選ぶことをおすすめします。
不安な点や疑問がある場合は、購入前に必ず販売者に質問し、納得できる回答が得られてから購入することをおすすめします。自作キーボードのコミュニティやSNSで評判を調べることも有効です。
自作キーボードキットを検討する際は、好みのキーキャップやキースイッチをどうするかといったところに気持ちが行きがちになりますが、今一度、どのような販売者から購入するのがいいのかという観点も加えて楽しいキーボードライフを過ごして欲しいです。
余談:サポート充実時における潜在的セキュリティリスク
なお、製作者からの手厚いサポートが継続的に提供され、コミュニティでの評価も高い製品であっても、ファームウェアのコードが公開されていなかったり、書き込む際にGitHub Actionsなど、ユーザーにとって未知のコードなどを追加できる余地がある作業が存在する場合、ファームウェアレベルでの潜在的なリスクは完全には排除できません。特に、マイコンやファームウェアに予期しないキーロガー機能やデータ送信機能が組み込まれている可能性も考慮する必要があります。
機密性の高い業務環境や重要な個人情報を扱う場面では、たとえ信頼できる製作者の製品であっても、ネットワーク監視ソフトウェアの導入や、機密作業時には別のセキュアなキーボードへの切り替えなど、多層的な防御策を検討することをおすすめします。信頼関係だけでなく、技術的な検証も含めた総合的なリスク管理が重要です。
